白目研究室

日警マニアを自称するニワカな何かが色々と書き連ねて行きます。マル機と現行日警装備中心に語りますが知識は中途半端で偏り有り。

警視庁における耐刃防護衣形態の変遷

書きたいネタは山ほどあるけど資料探しと裏取りが追い付かないモンですね、酒カスです。

 

前回記事警視庁型耐刃防護衣について - 白目研究室にて、脇腹防護板除く現行の警視庁型耐刃防護衣の構造についてあらかた整理出来たと言う事で今回はその続編1をば

ただ、警察の装備に関しては導入(更新)から浸透までの時間が長く、短命な装備や仕様と言うのも少なくないのであくまで一例として見て頂ければと。

 

※記事タイトル及び一部装備の名称変更(防刃衣→耐刃衣)、考察点を新たに挟みました。(2020.4.5変更)

※考察の整理を挿入及び一部画像を加工し文意に沿うように配置しました。(2020.6.9変更)

 

一般的に現在警察官が着用している耐刃防護衣(現行型)はどうやら納入時の品名として"内外着兼用型"とされているらしく、これは活動服や夏冬制服(=上衣)の中に着込んでも外に羽織っても良いよという意味だと思われます。本稿では一部箇所で注記の無い限り現行のメッシュ素材を用いた着脱容易なモノを外着型、それが出来る以前の主流だった白色のモノを(制服の上から羽織る事はしないだろうとの勝手な認識の下で)内着型と定義した上で論を展開します。(2020.8.10変更)

 

まず平成6年(1994)の服制改正で下は濃紺スラックス、上は水色ワイシャツに加えて白の合服が制服として導入。

 

直前に拳銃奪取を目的に警察官が襲撃、刺殺される事件が相次いで発生。

〇平成元年(1989)中村橋派出所警官殺人事件

〇平成4年(1992)旭が丘派出所警官殺人事件

 

これらの事件を鑑みて着心地と機動性を著しく欠き現場で敬遠されていた従来型の防刃装備から、常時着用の可能な耐刃防護衣への転換を警視庁が本格的に検討し始めたと考えてまず良いでしょう

 

<参考>以前の耐刃装備

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[出典:ナンブ @st2658617 11:58.2017/07/08https://twitter.com/st2658617/status/883520659833233410?s=21]

↑どうやらガチガチのプレートでは無く折り曲げ自由な厚手のフィルム?になんらかの耐刃物鋼を取り付けている様だが詳細は不明(2020.8.10訂正)

 

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[出典:2018/02/14『警察官が耐刃防護衣を着装しても致命傷を防げない理由とは?』policemaniacs.com]

↑上衣やジャンパーの下に着るタイプで、前身頃一帯に付けられたベルクロで固定する。以前警察密着系の番組で機捜隊員が着装して事案対応に向かっているのを確認した為、現行のメッシュ防護衣導入に伴って全廃されたという訳ではなく必要に応じて部署を変えて使われ続けている感じ

 

さて本題。

恐らくコレが警視庁が一番最初に導入した外着型耐刃防護衣だと思われるモノ。f:id:Sakekasu7273:20200301003150j:image

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[出典:みにみん⚓@miniminM249 22:31.2017/07/18https://twitter.com/miniminm249/status/887303739790434304?s=21]

・写真中の日付より、少なくとも2001年11月時点で機動隊員には外着型の耐刃防護衣が配備されている事、そして詳細は不明なものの、2種類の全く異なる耐刃防護衣が併存した時期が有るらしい事が分かる。

 

○まず手前のPMが着用する旧型防弾衣の様な形状の防護衣。腹部周りの色が若干褪せて居るのはベルクロが有り、前後身頃を固定するテープは外に露出する形で巻き付けられて丁度へその周辺で貼り着く様になっているからだと推測する。便宜上「初期型耐刃衣A」と名付けておく。(正式名称不明の為)

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防護面積も現行の物とさほど変わらなそうに見える。

 

○次に前面をはじめ反射材が多用されているコチラのタイプ、便宜上「初期型耐刃衣B」としておきましょう。

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画像a

[出典:Pinterest https://pin.it/3U8VMQT]

※因みにコチラの画像、2009年4月4日撮影と言う事で初期型耐刃衣Bは現行型が導入されても一部で使われ続けた様である。

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恐らく初めて前面にファスナーが使われる。そして腰テープが2本(現行埼玉県警型の防護衣と同じ)

 

・現行のいわゆる県警型にも肩ベルトや下腹部など一部に反射材を用いたものは存在しますが、こちらに至っては耐刃防護衣ではなくそもそも反射ベストなのでは無いかと疑いたくなる程に反射による視認性能に重きを置いた仕様。夜間眩しくならないのかな、とか思ったり

 

・コチラの初期型耐刃衣Bの着用方法だが、現行の警視庁ではまず見られない活動服の上から羽織る方式。現行型は対刃物用ベストがVネック気味※1に作ってあり活動服を着ればちょうど綺麗に防護衣が隠れる様になっている。

この後、統一規格の現行型防護衣を導入するにあたってこれを上衣の中に着込むか外に羽織るかの着装方針に何らかの変更が加えられたと推察する。

 

※1.筆者は耐刃衣の形状的差異を述べる際この警視庁型のVネック、対して標準的な県警型をU首とする例えが非常に的を射ていると考えている。最初に考えて下さった方に賞賛の言葉を送りたいと思う。

 

脱線してしまったが以上の画像より考察点を整理しようと思う

(ア)初期型耐刃衣A,Bはそれぞれ併用された時期が有るらしいこと。そしてBにあっては現行型登場後も一部で併用された。まぁ、移行期間的な奴ですかね

(イ)初期型耐刃衣A,Bの仕様、寸法は共通せず、防護面積も異なる様に見える(初期型耐刃衣Aの方が優る?)事、またそれによって対刃物用パネルもそれぞれ異なる物が使われていた可能性があること。

(ウ)初期型A,Bいずれにしても脇腹に耐刃物用パネルやそれが取り付けられそうな構造が見当たらず、脇腹防護という概念は当時まだ無かったであろうこと。

 

〇ただ、上記の写真は初期型A,Bどちらも機動隊のものでありまして、一様にこの通りだったかと言うとそれは苦しいかなと。

実際、地域課の方々に関する画像資料を見つけられてないんですよね。もしかしたらそもそも着用してなかったのかも知れないですが

 

・現行の小物入れ付き耐刃防護衣が導入される契機となったのが2005年2月19日に起こった、いわゆる「逃げる警察官事件」らしく…

警察庁長官が首相の苦言に謝罪…パトカー強奪未遂事件 2005.2.28 Mon 21:25』

https://s.response.jp/article/2005/02/28/68469.amp.html

事故の通報を受けて臨場した東京水上署員に対し薬物を乱用した被疑者(事故を起こした張本人)が武器を振り回して追い回して来た為たまらずPMが退避した所を運悪く同事案について近くを取材中だったテレビ局クルーに撮影されてしまったと言う事件。

引用した記事中には「薬物中毒者という情報があれば、当初から実務経験の豊富な警察官に防靭(原文ママ)・防弾服を着用の上で、もっと多人数で対応にあたっていた」と、現場の意見を取り上げている。映像を見る限り防護衣の有無は確認出来ないが、事故処理を念頭に臨場したのならばいずれの防護装備を着けていなかったのも頷ける。

 

・この件だけに関して言うのならば被疑者がPMに対してバットの様な物で抵抗していた為、耐刃防護衣があった所で…感は否めない(それに対応しろと言うなら大盾や機動隊用の防護装備の方が役立ちそうなもので)。

まぁ本件はイレギュラーな事案だったにしても、警察官の受傷防止策として導入が急がれたのは当然の結果でしょう

 

これによって警視庁が改めて常時着用出来る耐刃防護衣の導入を、それと同時に服制として統一規格の物を用意する事を決めたようである。

 

〇そして平成17年(2005)7月現行の小物入れ付き外着型耐刃防護衣が導入。

ポリスマガジン 8月号にて改良された現行耐刃防護衣の詳細が書かれている。(『ポリスマガジン8月号 警視庁/制服の上から着用でき、動きやすく軽快で 警察官も改良耐刃防護衣で “クールビズ”』2005年7月20日富士山マガジンサービス)

 

この耐刃防護衣、全面メッシュという素材の特性上現場の警察官からはかなり好評だった様で。

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[出典:四国新聞、2005年6月27日記事]

コチラにはまだ脇腹防護板が着いていないので便宜上「現行型初期耐刃衣」としておきましょう。

 

そして導入直後、警察官が耐刃防護衣で防護されていない脇腹部分(?)を刺され殉職する事件が千葉県警管内で発生。

〇千葉県佐倉市警察官襲撃事件(2005年11月8日)

職務質問の警察官、ナイフで刺されて死亡』(s.Response.jp 2005年11月10日 22:27)https://s.response.jp/article/2005/11/10/76364.amp.html

成田空港の検問所を突破、逃走した男を確保し護送しようとした所、警部補が被疑者の男に脇腹を刺された事で殉職。

 

恐らくこれを機に警視庁は脇腹部分の脆弱性を懸念し、対策に乗り出す。

→結論から言ってしまえば着脱可能でオプション装備的な性質を持つ脇腹防護板である。

しかしこの脇腹防護板、着用には対刃物用パネルを保持する為のベルクロを耐刃物用ベストの後身頃に取付けるなど、小加工が必要でして。なので「何の加工もない現行型初期耐刃衣に急造した脇腹防護板を追加」する事は不可能で、交換という形で脇腹防護板付きの現行型耐刃防護衣が改めて配布し直されたのではないかな、と。

 

そしてどうも現行型と一口に言っても何度かマイナーチェンジがあったらしく、最初期(外勤員に53型警棒を持たせてた時代)から今に至るまで全く同じ意匠を貫いた訳では無さそう。

・具体的には最初期の後身頃は緩い台形なのに対して現行型は脇腹防護板保持ベルクロを付けた分、腰の部分がほんの少し出っ張っている点。(ホントに若干ですが)

・右胸ポケット(小)の横幅も時期によって微妙に違ったり、初期型には左胸ポケットの無いものが合ったり

 

あとコレは予測の域を出ませんが、対刃物用パネルの構造?と言うか仕様と言いますか、コレも初期型と現行型で違う気がするんですね。初期型はパネル同士を繋ぎ合わせるリベットの形が防護衣外衣に浮いて出てる物がチラホラ。

現行型でそうなってる防護衣はまず見た事が無いので、パネルの連結方法を変えたかリベットの形が出ないよう別にシート被せたりしてるんでしょう

(2020.8.10追記)

 

この後2012年頃、増加する外国人にも警察官の存在を分かりやすくする為左胸と背面の所属名パッチが更新され従来の「警視庁」単体から「警視庁 POLICE」の英語併記となったのは有名な話。※但し2019年現在でも完全に更新されるには至っていない。

 

〇以上警視庁型耐刃防護衣に関する所見です

 

追記

今回より画像史料を使うにあたり引用元明記及び断り書きなど最大限著作権に配慮した上で転載をさせて頂こうと思います。

もし何か不都合が有ればこちらから事実関係を説明した上で、先方の意向に沿った対応を取ると共に関係箇所或いは記事全体の削除など行う場合があります。